◇ 朝日新聞 論壇◇(2000年1月17日掲載)
震災復興進める市民力に期待
立木 茂雄(たつ・き・しげ・お)★★


 昨年の夏より神戸市の震災復興総括・検証研究会のメンバーとして、京都大学防災研究所の林春男教授と共同で生活再建分野の検証を行ってきた。「生活の再建とは何を意味するのか」について、わたしたちは被災者や関係者の考えを出来るだけ忠実に把握したいと考えた。そこで神戸市全域で住民参加型の検討会(ワークショップ)を開催し、合わせて一六〇〇枚を越える意見カードを集めた。その意見を整理・分類すると、生活再建の実感は大きく七つの要素から成り立つことが分かった。

 当初私たちは、生活再建の基本はすまい、続いてお金や仕事だろうと考えていた。たしかに「すまい」に関するものは全体の三割を占め、枚数も一番多かった。ところが予想に反して、お金や仕事といった「くらしむき」に関する意見は全体の一割にも満たず、順位にして六位に過ぎなかった。

 では、「すまい」に次いで多く出された意見とは何だったか。意外にも、それは人と人との「つながり」に関するものであり、全体の四分の一を占めた。人はパンのみによって生きるのではない。衣食住が足りた後で、人が人として生きていくためには、つながりが不可欠である。それが神戸市民の生活再建の実感だった。ちなみに、三位以下の要素を順に列挙すると、「まち」「そなえ」「こころとからだ」「くらしむき」「行政とのかかわり」である。

 つながりを豊かにするために何ができるだろう。たとえば神戸市自治会連絡協議会の役員の方々とのワークショップの席上で、東灘区の自治会長さんは、震災後にだんじり祭りが活発になり、これが原動力になって新しい人たちとのコミュニケーションが強まってきたと語った。

 さらに筆者がこの一ヶ月あまりで直接かかわった事例を付け加えてみよう。神戸市の灘区や兵庫区では、地域のボランティア活動を中間的に支援する市民団体を公募し、その団体に行政の遊休施設を事務所として貸与する試みが始まった。また、市民みずからが市民活動への出資者になることをめざして創設したしみん基金・KOBEの第一回公開審査会も開かれ第一回目の助成も行われた。

 だんじり祭りも、市民団体によるボランティア活動支援も、あるいはしみん基金も、伝統や因習に依るのではなく、市民一人ひとりが個として自律し、他者と連帯する市民意識を発揮した結果うまれたものである。そして、断言してもよいのだが、これらはもし震災体験がなければ決して神戸には存在していなかったものだ。

 ワークショップの結果を踏まえて、昨年九月に神戸市民一万人を対象に意識調査を実施し、その中で震災後の考え方の変化についてたずねた。その具体的な項目は「自律と連帯」度を測るものだった。また時事通信社が昨年十二月に実施した全国世論調査にも、神戸市調査と同一の「自律と連帯」度の質問を加えてもらった。結果を比較すると、自律と連帯に関するほとんど全ての項目で、神戸の市民意識は全国平均より一割から二割高いものであった。この結果に被災地の市民は誇りを持ってよい。

 さらに兵庫県の委託で、昨年三月に林教授と共同で行った調査でも、約一千名の被災者の回答から、震災を契機として,被災地では自律と連帯に基づく市民意識が高まったことが確認された。その上、自律・連帯度の高い人ほど,個人としての災害からの復興度も高いことがわかった。

 震災は私たちから多くのものを奪ったが、あの震災の体験を通じて、私たち市民が確実に手にいれたものもある。自律と連帯にもとづく市民意識がまさにそれであり、復興を進める「市民力」となるのだ。震災を期に神戸・阪神間に生まれたこの新しい価値を市民社会の貴重な資本として認識し、有効な活用法を開発することが急務である。

 一般の市民が幅広く参加できる地域活動を生みだし、民間の中間支援団体や基金などを整備する。その仕組みを着実につくっていくことが、これからの復興のカギである。

 市民が公共性を紡ぎだす。市民力の実践を通じて、被災地に住まう私たちは、被災体験を意味づけ、歴史に対する責任を果たしていけると考えるのだ。

(関西学院大学教授・ソーシャルワーク、朝日21関西スクウェア会員)


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