『市民力』

 一昨年の夏、市民のみなさんと生活再建についてふりかえり、今後の課題について知恵を出しあう住民参加型の草の根検証作業に加わった。市内各地の検討会から集まった総数一六二三枚の意見カードを整理・分類すると、「人と人とのつながり」の大切さを訴える意見の多いのにおどろいた。

人はパンのみによって生きるのではない。人が人として生きていくためには、つながりが不可欠。それが神戸市民の生活再建の実感だった。

つながりを豊かにするには二つのことが要る。自分が動かなければ誰も助けてくれない。でも、限られた資源を皆で分かち合うためには「足るを知る」ことも大切だ。被災地では略奪もなく、みんな列を作って炊き出しに並んだ。

そのとき、「自分から動く」ことの大切さとともに、「自分だけは特別」意識が許されないことも知った。この二つの気づきから市民の新しいこころざしが生まれた。被災者の復興支援のしごとを続けてきた私たちは、それを市民力と呼んだ。ただ、こころざしがこころみへとすぐに結実するわけではない。

新しいこころざしを形あるものにし、市民力にまで高めるにはどうすればよいか。これが、復興計画推進のプログラム作りの大きなテーマとなった。つながりを豊かにするには、市民一人ひとりが地域に関心や愛着をもち、活動に参加できるようになればよい。「わがこと」と感じられるモノやイベントや空間はそのための絶好の呼び水になる。

平成十三年度予算案の「地域への愛着づくり事業」は、青少年の遊び場を市民自らがプロデュースすることで「都市のコモンズ」(皆で所有するもの)づくりをめざすものだ。

「わがこと」と感じられるためには、まち自身が人間サイズになることも大切。歩ける範囲で生活に必要な機能が備わっていて、いつでも寄り合える場所がある。そうなれば、まちのことを一番よく知っている市民自身が主人公のまちづくりが始められる。住民自治を実現するための「コンパクトタウンづくり」構想では、具体的な支援策について検討に入る。

「地域の愛着づくり」も「コンパクトタウン」も、市民と行政の協働がキーワード。でも、その具体的な条件についてはコンセンサスがない。協働を実現するための民主主義のルールをつくる。「協働を推進する会議」は、市民・行政・事業者が協働して公共性を紡ぎだす方法についてコンセンサスづくりをめざす。

ここで取り上げた施策は、株式会社神戸市と揶揄された都市経営手法とは百八十度異なる。一握りの人間の頭だけで計画するのではなく、「する・見る・考える」という自律的なふりかえりを市民も行政も一人ひとりがくり返す。やがて、つながりを通してこころがふるえあう。「する・見る・考える」の循環はさらに広がり、いつのまにか予想もつかないほど大きな渦となる。このようなかたちで、多くのこころがつながり、神戸がより開かれたまちになり、復興が創発されていけばよい、と思う。