市民力 (神戸21世紀・復興記念事業新聞広報2001年2月25日朝日新聞、2月28日読売新聞)


 震災から五年目を迎えた一昨年の夏、市民のみなさんと生活再建についてふりかえり、今後の課題について知恵を出しあう住民参加型の草の根検証作業に加わった。市内各地の検討会から集まった総数一六二三枚の意見カードを整理・分類すると「すまい」に関する意見がもっとも多く全体の約三割。次は「人と人とのつながり」に関するもので、全体の約四分の一にものぼった。人はパンのみによって生きるのではない。衣食住が足りた後で、人が人として生きていくためには、つながりが不可欠。それが神戸市民の生活再建の実感だった。

つながりを豊かにするには二つのことが大切だと草の根検討会から学んだ。自分が動かなければ誰も助けてくれない。でも、限られた資源を皆で分かち合うためには「足るを知る」ことも大切だ。被災地では略奪もなく、みんな列を作って炊き出しに並んだ。そのとき、「自分から動く」ことの大切さとともに、「自分だけは特別」という気持ちは許されないことも知った。自分一人で生きているのではないのだ。この二つの気づきから市民の新しいこころざしが生まれた。当時、私はそれを市民力と呼んだ。ただ、こころざしがこころみへとすぐに結実するわけではない。

新しいこころざしを形あるものにし、市民力にまで高めるにはどうすればよいか。これが、復興計画推進のプログラム作りにあたったときの大きなテーマとなった。つながりを豊かにするには、市民一人ひとりが地域に関心や愛着をもち、活動に参加することが必要だ。それを支えるしくみもいる。行政も市民も、協働して公共性を紡ぎだす方法を身につけなければならない。

二一世紀最初の一・一七から始まった復興記念事業は、人と人とのつながりを豊かにすることを通じて生活を再建させるための壮大な社会実験だ。それは復興記念祝賀会ではない。神戸がより開かれたまちになるための復興推進事業そのものだ。

「この指とまれ」式の市民提案の事業化、事務局への市民参画、市民による企画・実践事業の推進、地域イベント重視。市民側が汗を流して自己調達した資金三〇億円、その同額を行政がマッチング・ファンドとして資金面でも協働する。どれをとってみても、株式会社神戸市と揶揄された都市経営手法とは一八〇度異なる創意・工夫で市民・企業・行政の協働が実験されてきた。

 一握りの人間の頭だけで計画するのではなく、「する・見る・考える」という自律的なふりかえりを一人ひとりがくり返す。やがて、つながりを通してこころがふるえあう。「する・見る・考える」の循環はさらに広がり、いつのまにか予想もつかないほど大きな渦となる。神戸からの感謝の手紙も、「希望の灯り」市民ランナーも、「一五〇万本のひまわり」運動も、そもそもはたった一人のこころのふるえから始まった。このようなかたちで、多くのこころがつながり復興が創発されていけばよい、と思う。


URL:http://www-soc.kwansei.ac.jp/tatsuki/papers/Kobe2001/newpage1.htm

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